近年、“自然に還る”という考え方から「海洋散骨」が注目されています。従来の葬法とは異なり、自然環境に配慮した新しい供養のスタイルとして、多くの人に選ばれています。
しかし、初めて海洋散骨を検討する方にとっては、「どのような流れで行なわれるのか…」「何を準備すればよいのか…」など、不安や疑問も多いはずです。
そこで、この記事では、海洋散骨の一般的な流れと各ステップの注意点を解説します。
海洋散骨とは?
海洋散骨とは、遺骨を海へ撒く葬法のことです。自然葬のひとつで、墓石を立てたりしないため、従来の墓地埋葬とは大きく異なります。近年、お墓を継承する人がいなかったり、経済的な理由によって墓じまいや墓地埋葬とは別の葬法を選択する人が増えています。そうした中、海洋散骨は故人を偲ぶことができる新たな葬法として注目を集めています。
海洋散骨の流れ
海洋散骨の具体的な流れは業者ごとで異なりますが、一般的には以下のような流れで進みます。
- 散骨業者への申し込み・相談
- プラン選定と打ち合わせ
- 遺骨の粉骨(パウダー状に加工)
- 当日の出航・海洋散骨の実施
- 散骨証明書の発行や写真・動画の受け取り
1. 散骨業者への申込み・相談
まずは海洋散骨を専門に取り扱う業者に問い合わせをし、相談を行ないます。申し込みの際は、希望する散骨のスタイル(個別散骨、合同散骨、代理散骨など)や、希望日、出航エリアなどを伝えます。
業者によっては事前に見積もりやパンフレットの送付を行なってくれるため、不明点があればこの時点で確認しておきましょう。
また、散骨業者へ相談する前に親族の同意は得ておきましょう。後々のトラブルを防ぐためにも、家族での話し合いを済ませてから申し込みを行なうのが理想です。
2. 打ち合わせ・日程調整
申し込み後は、業者と打ち合わせを行ない、具体的な日程や内容を決定します。出航場所や希望する海域、参列人数、所要時間、オプション(献花・献酒・読経など)も、このタイミングで調整します。
また、当日の天候次第で日程が変更になることもあるため、予備日を設けると安心です。打ち合わせは電話やオンライン、または対面で行ないます。
3. 遺骨の粉骨処理
海洋散骨では、遺骨をそのまままくことは法律上できません。必ずパウダー状に粉骨し、遺骨が自然に還る状態にする必要があります。
粉骨は自分で行なうことも可能ですが、専用の設備や衛生管理の観点から、業者に依頼するのが一般的です。
粉骨済みの遺骨は、水溶性の袋に入れられたり、散骨用の容器に収められたりします。粉骨後の遺骨の保管場所や受け渡し方法も事前に確認しておきましょう。
4. 出航当日の流れ
当日は、指定された港に集合し、乗船して出航します。海域に到着したら、黙祷・献花・献酒などのセレモニーを行ない、粉骨した遺骨を海へ撒きます。その後、再度黙祷し、写真撮影などが行なわれたりします。
全体の所要時間は1〜2時間程度が一般的です。船酔いが心配な方は酔い止めを用意し、服装も、風や水しぶきを考慮したものを選びましょう。また、式中のマナーや注意事項は事前に業者から説明されるので、しっかりと守るようにしましょう。
5. 散骨後の証明書発行
海洋散骨が終了すると、多くの業者では「散骨証明書」が発行されます。これは、散骨を行なった日時や場所、天候などが記された書類です。供養の記録として大切に保管する人が多いです。
また、散骨証明書があれば、メモリアルクルーズもスムーズに行なえますので、節目で故人を偲びたい場合は保管しておくのがおすすめです。
海洋散骨の注意点
海洋散骨を円滑かつ心穏やかに執り行なうために、いくつか覚えておきたいことがあります。
喪服での散骨は基本NG
通常の葬法では喪服を着用するのが一般的ですが、海洋散骨では基本的に喪服は控えます。海洋散骨は、周囲の宗教的感情に配慮して行なわなければなりません。簡単に言うと、ここでいう宗教的感情とは、葬法や供養に対して感じる人それぞれの気持ちです。
たとえば、船が停泊している港や桟橋で喪服の人たちが大勢いたら、その港や桟橋を利用している人たちはどのような気持ちになるでしょうか。あまりいい気持ちはしないはずです。港や桟橋によっては喪服で来ることを禁止しているくらいです。
海洋散骨当日の服装は、カジュアル過ぎず、落ち着いた色合いを意識した動きやすい服装が理想的です。締め付けが強い服装も船酔いにつながる可能性があるため、控えるのがおすすめです。また、海上では風が強くなることもあるため、帽子やスカーフなど飛ばされやすいアイテムは避け、一枚羽織れる上着を用意しておきましょう。
服装についての詳細は、依頼した業者から説明されるはずです。不安な場合は打ち合わせの際に質問するのもよいでしょう。
ルールやマナーを守る
海洋散骨には一定のルールやマナーがあります。たとえば、遺骨以外のもの(プラスチック製の花や人工物)を海に流すことは禁止されています。また、献花を行なう場合は自然に還る素材でつくられたものである必要があります。このようなルールやマナーを守ることも大切です。
海洋散骨について親族間で合意しておく
海洋散骨は近年、注目されている葬法ですが、まだまだ認知は広がっていません。人によっては、故人の遺骨を海に撒くことに抵抗がある人もいます。そのため、海洋散骨する際は事前に親族間でしっかりと話し合い、関係者全員の合意を得ておくことが大切です。
海洋散骨にかかる費用の目安
海洋散骨にかかる費用は、選ぶプランや参加人数、オプションの有無によって異なります。海洋散骨では、主に委託(代行)散骨、合同(乗り合い)散骨、チャーター(貸し切り)散骨の3つのプランがあります。以下、それぞれのプランの費用の目安をご紹介します。
- 委託(代行)散骨:3万円~8万円程度
- 業者が遺族に代わって散骨を行なうタイプです。費用を抑えたい方に人気です。
- 合同(乗り合い)散骨:10〜20万円程度
- 複数の遺族が同じ船に乗り合わせて行なうタイプです。基本的に個別のセレモニーには対応していません。また、散骨の日時も業者側で決められていることが多いです。
- チャーター(貸し切り)散骨:20万円〜30万円以上
- 1組の遺族だけで船を貸し切って散骨を行なうタイプです。自由度の高いセレモニーが可能で、献花や読経などのオプションも追加しやすい点に特徴があります。
上記の基本のプランに加えて、業者ごとのオプションや船の出港地、散骨場所(東京湾・瀬戸内海・沖縄など)によって料金が変動します。正確には事前に見積もりを取るとよいでしょう。
海洋散骨のよくある疑問
Q. 海洋散骨は法律的に問題ないか?
A.墓地や埋葬等に関する法律には、『墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)』があります。しかし、現在のところ海洋散骨がこの墓埋法に抵触するという法解釈とはなっていません。数十年前ですが、法務省は、葬送を目的とし、相当の節度をもって行われる限り、散骨は違法には当たらないという見解を示しています。ただし、遺骨は必ず粉骨してパウダー状にすること、漁業や航路に支障のない沖合で行なうことなど、海洋散骨には一定のマナーやルールがあります。事業者向けですが、厚生労働省や関係団体が散骨に関するガイドラインを公表しています。海洋散骨を検討する際は、こうした情報に目を通しておくと安心です。
厚生労働省『散骨事業者向けガイドライン』 →
一般社団法人海洋散骨協会『ルールブック』 →
Q. どれくらい沖に出て散骨するのか?
A.散骨場所は一般的に海岸から1海里(約1km)以上の沖合で実施するのが基本とされています。これは、漁業に従事する人たちや住民、旅行客に配慮するためです。ただし、出港地や海域によって若干の差があるため、事前に業者に確認するとよいでしょう。なお、所要時間については、出航から帰港まで約1時間〜2時間が一般的です。セレモニーを含めた進行が丁寧に行なわれるため、時間に余裕を持ったスケジュールを組むことがすすめられます。
Q. ペットの海洋散骨もできるか?
A.近年ではペットの海洋散骨サービスも増えています。大切な家族の一員として旅立ちを見送ることができ、ペット用の個別・合同プランも存在します。散骨証明書も発行されます。ただし、人と同様に粉骨が必要です。
まとめ
海洋散骨は、申し込みから出航、散骨、証明書の発行まで、流れをしっかり把握しておくことで、スムーズで心のこもったセレモニーを実現できます。自然とともに故人を見送る新しい葬送のスタイルで、安心して行なうためにも、業者選びや事前準備、マナーを押さえておくことが大切です。