海洋散骨は近年、注目されている葬送のひとつですが、「海に遺骨を撒くのはよくない」と言われることもあります。この記事では、海洋散骨が敬遠される理由からデメリット、後悔しないためのポイントまで解説します。海洋散骨は本当によくないのか気になる方はぜひご覧ください。
海洋散骨とは?
海洋散骨とは、亡くなった方の遺骨を細かく粉砕し、専用の船で海へ撒く葬送のことです。自然に還りたいという希望や宗教・価値観の多様化、後継者不在などの理由から近年、日本国内でも選択する人が増えています。
一般的には、東京湾や相模湾、瀬戸内海、または沖縄の海域など、日本各地の海で海洋散骨が実施されています。最近では、メモリアルクルーズといった家族が同乗し、故人を偲ぶセレモニーを行ないながら散骨できるプランや、業者が代行して実施する委託散骨など、様々なサービスが提供されています。
海洋散骨がよくないと言われる理由
近年、注目を集めている海洋散骨ですが、まだまだ社会への浸透が浅いことから、「散骨はよくない」と考えている人も少なくありません。ここでは、その主な理由をご紹介します。
遺骨を海に撒くことが違法だと思われているため
日本では、遺骨の取り扱いについて『墓地、埋葬等に関する法律』によって定められています。一部の人は、この法律に海洋散骨が違反しているのではないかと考えていますが、実際には遺骨をしっかりと粉末化するなど、一定のルールを守ったうえで行なえば、海洋散骨は違法とされていません。
しかしながら、遺骨を海に撒くという行為そのものが従来のお墓とは異なるため、「違法では?」と不安に思われることがよくあります。このような誤解や不安が、海洋散骨はよくないというイメージにつながっています。
環境に悪影響があると思われているため(六価クロムなど)
海洋散骨は環境に悪影響を及ぼす行為ではないかという懸念を持つ方も多く見受けられます。特に、火葬した後の遺骨には六価クロムなどの有害物質が含まれています。この六価クロムが海に流れ出て、魚介類や生態系に悪影響を及ぼすのではないかというわけです。
しかし、厚生労働省や海洋散骨協会、海洋散骨船協会が定めるガイドラインに沿って細かな粉骨処理を行なえば、環境負荷を限りなく抑えられます。それでも、情報が不足していたり、環境保護への意識が高まっていたりする理由から、海洋散骨はマイナスイメージを持たれることがあります。
親族や地域住民から反対されると思われているため
海洋散骨は伝統的な墓地埋葬とは異なるため、家族や親族、周囲の地域住民から反対されるのではないかと心配する声も多いです。特に高齢者の間では、先祖代々の墓を守るべきという価値観が根強く残っています。そのため、周囲に理解を求めずに海洋散骨を選ぶと、後々トラブルや人間関係の争いにつながることもあります。
また、近隣住民が散骨に対して「気持ち悪い」「自分の暮らしや漁業に影響がないか」といった漠然とした不安を感じることもあります。社会的な理解が十分でないことで反対意見が生まれやすく、これが「よくない」と言われてしまう一因となっています。
海洋散骨のデメリット
海洋散骨はよくないと言われる理由には、海洋散骨ならではのデメリットも関係しています。この章では、そんな海洋散骨のデメリットについて解説します。
決まった場所でのお墓参りができなくなる
海洋散骨では、遺骨を海に撒いてしまうので、お墓がありません。そのため、これまでのように決まった墓地に足を運び、お墓の前で手を合わせるという供養のスタイルが難しくなります。
故人ゆかりの場所がないため、「どこにお参りすればよいのかわからない」と感じる方も少なくありません。また、法要や命日などに家族が集まりやすい拠点が無くなることで、供養の文化や家族の親交の場が失われる可能性もあります。
一度散骨すると遺骨を取り戻せない
海に遺骨を散骨した場合、遺骨は回収することができません。散骨はやり直しのきかない方法であり、気持ちが変わった際や新たな事情が生じた場合に対応ができないという特徴があります。
そのため、「手元に少しでも遺骨を残しておきたかった…」「やはりお墓に納めればよかった…」と後悔する声もあります。将来的に供養方法を変えたり、別の家族の意向を取り入れたりすることが容易ではないため、海洋散骨する際には慎重な検討が必要です。
家族や親族の理解を得られにくい
海洋散骨は比較的新しい葬送で、日本の一般的な墓地埋葬の文化とは異なります。そのため、特に年配の親族や地域の慣習を大事にする家庭ほど、海洋散骨に対して不安や嫌悪感を抱く傾向にあります。
こうした背景から、海洋散骨の意向が十分に伝わらない場合、家族間や親族間で意見の食い違いが生じることがあります。最終的にトラブルや後悔につながることもあるため、事前の話し合いと合意形成が重要となります。
マナーを知らないとトラブルになる
海洋散骨にはいくつかのマナーや決まりごとがありますが、それらを知らずに散骨を行なってしまうと、思わぬトラブルになることがあります。
たとえば、遺骨を細かく粉末状にしないまま撒いてしまったり、散骨場所が他の船舶の航路や漁業権のある海域に近かったり。このようなことをすると、法令違反を問われたり、第三者から苦情を受けたりするおそれが出てきます。
また、哀悼の気持ちを示すべく通常のお花や副葬品を海に投げ入れることも一般的ではありません。適切な場所選びやルールを守った形での散骨が求められるのです。
後悔しないための海洋散骨のポイント
家族や親族から合意を得ておく
海洋散骨を選ぶ場合、最も重要なのは家族や親族の合意を事前に得ることです。故人が生前に散骨を希望していた場合でも、実際に執り行なうのは遺された家族ですので、気持ちの整理や考え方に時間がかかることもあります。
特に、祖父母世代や親戚の中には従来のお墓への埋葬を望む方もいるため、できるだけ早い段階で相談の場を設け、家族全員で納得できる形を探ることが大切です。このとき、宗教的な習慣や地域のしきたりも考慮しながら話し合いを進めると、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
信頼性のある海洋散骨業者に委託する
海洋散骨を安全に行なうためには、信頼できる業者に委託することが大切です。日本国内には「一般社団法人 日本海洋散骨協会」のような業界団体があり、協会に加盟している業者はガイドラインのもとで運営されています。
決まりごとを守り、粉骨や海域の選定などで正しい手順を踏んでいるかどうか、事前にしっかりと確認しましょう。過去の実績や利用者の評判、対応の丁寧さも判断材料となります。また、トラブルや不測の事態にも柔軟に対応できる業者を選ぶことで、安心して散骨を行なうことができます。
メモリアルクルーズなどのオプションを確認しておく
一般的に海洋散骨には、さまざまなオプションが用意されています。特に家族で参加できる「メモリアルクルーズ」や記念写真の撮影、献花・献酒のサービスなどは、故人との最後の時間をより特別なものにしてくれます。
散骨当日を思い出深い時間にするためにも、どのようなオプションが用意されているか、事前に詳しく確認しておきましょう。そうすることで、後悔するリスクを低くすることができます。
手元供養品(部分散骨)を考えておく
海洋散骨には、すべての遺骨を海に還すのではなく、一部を自宅に残して「手元供養品」として大切に保管する「部分散骨」という方法もあります。最近では、専用のミニ骨壺やペンダント、お守り袋など、手元に置きやすい手元供養品が多数販売されています。このような手元供養品もあらかじめ考えておくとよいでしょう。
手元供養品があれば、将来的にお墓を建てたり、永代供養墓に納骨したりするなど、選択肢を残しておくこともできます。すべてを散骨することに不安がある場合や、お参りする場所を残しておきたいと考えている家族には、部分散骨を取り入れることがおすすめです。
海洋散骨に代わる自然葬
海洋散骨は非常に魅力的な葬送ですが、自然葬にはほかにもいくつか種類があります。自然葬に興味がある方は、海洋散骨以外の葬送も検討してみてください。
山間散骨
山間散骨は、山や森の中などの陸地で遺骨を撒く葬送です。日本では、特定の山林や自然公園で許可を得て実施されることが多く、自治体ごとにルールが定められています。山間部は自然の雄大さや静けさを感じられる場所が多く、海洋散骨に比べてアクセスしやすい点もメリットです。
ただし、土地所有者の許可が必要だったり、環境への配慮が必要だったり、立ち入りが制限されるエリアがあったりするため、散骨を実施する際には事前の確認が必要です。また、陸上での散骨の場合、散骨した場所に少しでも土をかけたりすると、埋葬となるため、「墓地、埋葬等に関する法律」の規制を受ける可能性があります。この点にも注意が必要です。
無人島散骨
無人島散骨は、一般の人がほとんど訪れない無人島周辺で遺骨を撒く葬送です。プライベート感が非常に高く、他の人の目を気にせず静かに故人を偲ぶことができます。
離島までのアクセスや、天候に左右される移動のリスクがあるものの、特別な葬送のため、思い出深い散骨にすることができます。実施にあたっては、現地の自治体や管理組織との調整が必要な場合があるため、ご自身で勝手に行なわず、業者と相談しながら進めるのがおすすめです。
空中散骨
空中散骨は、セスナ機やヘリコプターなどの航空機から、空中に粉骨した遺骨を撒く葬送です。壮大な空の上から大自然に還っていくというイメージから、近年注目されている自然葬のひとつです。
飛行ルートや散骨ポイントは国や運航会社で規制があるため、実施できるエリアが限定されることもあります。
樹木葬
樹木葬は、墓石の代わりに樹木を墓標として埋葬する自然葬です。専用の霊園や公園墓地が全国各地に整備されており、基本的には宗旨・宗派を問わず利用できます。管理や後継者の負担が少ない点も人気が高い理由です。
樹木の種類やデザイン、共同・個別区画など、選択肢も増えており、自然に抱かれながらゆっくり時を重ねるイメージを持つ方に支持されています。訪れるたびに四季折々の風景が広がる点も樹木葬ならではの魅力です。
まとめ
海洋散骨に対して、「違法なものなのでは?」「環境に悪影響を及ぼすのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、海洋散骨はガイドラインに基づいて正しい方法で節度(マナー)をもって実施すれば、法の規制を受けずに行なえるものです。ぜひ、新たな葬送のひとつとして、海洋散骨を検討してみてはいかがでしょうか。